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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)8799号 判決 1977年12月07日

原告 平安地所株式会社 (旧商号 朝日興業株式会社)

右代表者代表取締役 渡辺典治

右訴訟代理人弁護士 磯崎良誉

同 磯崎千壽

同 岡村親宜

同 圓山田作

同 小木郁哉

同 中村哲夫

被告 大木建設株式会社

右代表者代表取締役 大木貞助

右訴訟代理人弁護士 三文字正平

同 手塚敏夫

主文

被告は原告に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する昭和四五年一月一四日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の負担、その余を原告の負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、原告が二〇〇万円の担保をたてたときは、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、八六〇二万五〇〇〇円及びうち一五二六万二五〇〇円に対する昭和四四年九月二八日以降、うち一五二六万二五〇〇円に対する昭和四五年七月一日以降、うち二七七五万円に対する同年一月一四日以降、うち二七七五万円に対する同年四月一日以降各完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

(請求原因)

一  原、被告の地位

原告は、不動産の売買ならびにその仲介斡旋等を目的とする株式会社であり、被告は、土木建築工事の請負等を目的とする株式会社である。

二  本件取引の経過

1 原告代表者渡辺典治(以下単に渡辺ということがある。)は、昭和四三年九月下旬、被告がその所有しかつその営業所として使用していた別紙第一物件目録記載の土地建物(以下被告物件という。)を売却する意向を有していることを聞知したので、昭和四四年二月三日頃、被告代表者大木貞助(以下単に大木ということがある。)に対し、右売却について仲介斡旋をさせてほしい旨申込み、原、被告間において概略左記内容の話合いがまとまった。

(イ) 被告は、手取り額が坪当り二五〇万円となることを条件として、買主の発見及び売買の仲介斡旋を原告に依頼すること

(ロ) 被告は、その本社として使用する物件を買い替えるについて、適当な物件の発見及び買収の仲介斡旋を原告に依頼すること

(ハ) 被告は原告に対し、右(イ)(ロ)の各売買につきそれぞれ売買代金額の三パーセント相当の仲介報酬を支払うこと

2 渡辺は、被告物件を売込む先として訴外鹿島建設株式会社(以下鹿島建設という。)を選定し、同会社不動産管理部長訴外沢木康(以下単に沢木ということがある。)と密接な接触を保ち、被告物件の買取り方を働きかけた。

3 その結果、同年五月二七日大木、沢木の両名が渡辺立会いの下に被告物件の売買について話合い、両者間に売買の基本条件として次の三点について合意が成立し、被告の代替物件買取りの見通しがつき次第契約書を作成することを申合せた。

(イ) 被告は被告物件を坪当り二六七万八〇〇〇円(総額九億九〇八六万円)で鹿島建設に売渡し、同会社はこれを買受ける。

(ロ) 売買代金は、契約締結時、中間時及び土地の所有権移転登記・引渡時の三回に分割して支払う。

(ハ) 被告は、昭和四五年一〇月一日までに被告物件につき所有権移転登記手続をし、かつ、これを引渡す。

4 右話合いの際、大木及び沢木は渡辺に対し、被告物件売買の仲介斡旋に対する報酬として、売主、買主双方とも代金額の三パーセントに相当する金員を売買契約締結時及び登記時に各半額を支払うことを約した。

また、その際大木は渡辺に対し、被告物件売却に伴う被告会社本社用地の代替物件買取りについて、その仲介斡旋を依頼し、渡辺はこれを引受けた。

5 渡辺は、被告のためその本社用地の代替物件を求めて奔走し、昭和四四年七月までの間に約三三ヶ所の物件について情報を提供し、あるいは現地に案内し、資料を提供した。

その結果、訴外株式会社大沢商会(以下単に大沢商会という。)が港区桜川町に所有する土地建物(以下大沢商会物件という。)が第一候補にあがり、同年六月二六日頃大木と沢木との間で、鹿島建設が大沢商会物件を買取った上被告物件と等価で交換する方針を立てたが、大沢商会がこれに同意しなかったため、被告が大沢商会から右物件を買取ることとし、被告は同年七月九日付買受依頼書(甲第二号証)を原告に交付した。

6 被告は、大沢商会物件を買取るべく、原告の仲介のもとに努力したが、その間の同年七月初旬頃、渡辺は大木に対し、訴外丸紅飯田株式会社(以下単に丸紅飯田という。)所有の別紙第二物件目録記載の土地建物(以下丸紅飯田物件という。)が売りに出ていることを知らせ、万一大沢商会物件を買取れない場合に備え、これを第二候補とすべきことを大木に勧めた。

ところが同月下旬に至り、大沢商会がその所有物件を他へ売却することを決定したので、被告は、渡辺の建策に従い、丸紅飯田物件を本社用地の代替物件として買取る方針を立て、同年八月五日原告にその仲介斡旋を正式に依頼した。そして、大木はその頃、売買代金額の三パーセント相当の報酬を支払うことを渡辺に約した。

7 そこで原告は、丸紅飯田から丸紅飯田物件の売却について仲介を委託されていた訴外漆原不動産株式会社(以下漆原不動産という。)と連絡を保ち、丸紅飯田物件の獲得のため奔走した。丸紅飯田物件については、訴外住友生命保険相互会社が被告よりも早く買取りを希望し、相当話が煮詰まっていたが、渡辺は、同会社に別の物件を紹介するなどして手を引かせ、被告のため丸紅飯田物件の買取りに尽力した。

8 ところが被告は、同年七月下旬又は八月上旬頃から、原告に内密で訴外大一不動産株式会社の仲介により被告物件を訴外新泉興産株式会社(以下単に新泉興産という。)に売却すべく交渉を進め、同月二六、七日頃には、新泉興産から、坪当り二七五万円の買値を示して、強い買取り希望の意が表明されるに至った。

9 しかるに被告は、同月一九日頃前記承諾書による売却条件を一方的に変更して坪単価を三〇〇万円とするよう要求し、同月二九日原告及び鹿島建設に対し、被告物件を坪当り二九九万円で鹿島建設に売渡すこと、受渡期日を昭和四五年三月一五日までとすること、手付金は代金総額の四〇パーセント、内入金は同じく三〇パーセント(その支払期日を昭和四四年一二月三〇日とすること)とし、残金は昭和四五年三月に支払うこと等を内容とする同日付承諾書を差入れた。なお、原告に対する承諾書には、仲介報酬は代金総額の三パーセントとし、契約成立時及び所有権移転登記時に半額宛を支払うことが記載された。

10 渡辺は、昭和四四年九月四日、大木が原告に内密で新泉興産と売買交渉を進めていることを探知し、大木に抗議したところ、同人は、新泉興産との間に売買契約が成立した場合にも、鹿島建設との間で売買が成立した場合と同様に売買代金額の三パーセントに相当する仲介報酬を支払うことを確約して、新泉興産と直接売買の交渉を進めることの了解を求めたので、渡辺はこれを承諾した。

11 これより先の同年八月二九日、大木は渡辺に対し、被告の取締役で富士銀行出身の太田良助と同じ富士銀行出身の丸紅飯田の石井専務取締役との間で丸紅飯田物件の買取りについての交渉を進めていることならびに九月一〇日までに丸紅飯田に買取諾否の回答をしなければならないことをはじめて洩らし、丸紅飯田物件の売買の件から手を引いてもらいたい旨渡辺に要望した。これに対し渡辺が、原告が前記のように全力をあげて丸紅飯田物件の買取りにつき奔走してきたにも拘らず、原告を抜いて直接丸紅飯田と交渉したことは承服できないとして、大木に強く抗議したところ、大木は、原告がこころよく手を引いてくれれば、約束どおり三パーセントの仲介報酬を支払う旨言明した。

12 かくして、被告、鹿島建設及び新泉興産の三者は、同月上旬頃、新泉興産が被告から被告物件を買取り、その地上に鹿島建設に建築を請負わせて建物を建築することならびに売買代金調達について鹿島建設が援助することを合意し、その後は故意に右売買について一切原告を関与させることなく、同月二七日被告と新泉興産との間において、新泉興産が被告物件を坪当り二七五万円、代金総額一〇億一七五〇万円で被告から買受ける旨の売買契約が成立し、同日所有権移転仮登記が、昭和四五年六月三〇日所有権移転本登記が経由された。

13 また被告は、その後も原告を抜いて丸紅飯田と交渉を進め、昭和四五年一月一三日同社との間で丸紅飯田物件を代金一八億五〇〇〇万円で買取る旨の売買契約を締結し、同年四月一日所有権移転登記を経由した。

三  仲介契約の成立

1 被告物件について

原、被告間の被告物件の売買についての仲介契約は、遅くとも昭和四四年五月二七日成立し、その内容は次のとおりであった。

(イ) 被告は、被告物件の売却についての仲介斡旋を原告に依頼する。

(ロ) 売却条件は、坪当り二六七万八〇〇〇円、引渡時期は昭和四五年一〇月一日、代金支払方法は、契約金、中間金、最終残金の三回払いとする。

(ハ) 仲介報酬は売買代金の三パーセントとし、売買契約締結時及び登記時に各半額を支払う。

2 被告会社本社用地の代替物件について

(一) 被告会社本社用地の代替物件買取りについての仲介契約は、昭和四四年五月二七日原、被告間に次の内容で成立した。(第一次主張)

(イ) 被告物件売却に伴う被告会社用地の代替物件買取りについての仲介斡旋を原告に依頼する。

(ロ) 仲介報酬は買取代金額の三パーセントとし、売買契約締結時及び登記時に各半額を支払う。

(二) 仮に右明示の仲介契約の成立が認められないとしても、原、被告間には、右同日、右代替物件の仲介依頼により黙示の仲介契約が成立した。しかして、この場合の仲介報酬と支払方法は、被告物件の売却についての仲介報酬が三パーセント、売買契約締結時及び登記時各半額支払の約であったことならびに業界の慣行などからして、買取代金額の三パーセント、売買契約締結時及び登記時各半額支払であるというべきである。(第二次主張)

(三) 仮に右(一)(二)の主張が認められないとしても、同年八月五日被告が丸紅飯田物件の買取りについての仲介斡旋を原告に依頼した際、(一)(イ)(ロ)の内容の仲介契約が原、被告間に成立した。(第三次主張)

(四) 仮に以上の主張が認められないとしても、同年八月五日、右同一内容の黙示の仲介契約が原、被告間に成立した。(第四次主張)

四  仲介報酬請求権

1 被告物件について

(一) 昭和四四年九月四日の合意に基づく仲介報酬請求権(第一次主張)

(1) 第二項10のとおり、被告代表者大木は原告代表者渡辺に対し、昭和四四年九月四日、新泉興産との間で売買契約が成立した場合にも、鹿島建設との間で売買契約が成立した場合と同様に売買代金額の三パーセントに相当する仲介報酬を支払う旨約した。

(2) したがって、原告は被告に対し、前項1の仲介契約と右合意に基づき、被告と新泉興産との間の売買代金額一〇億一七五〇万円の三パーセントにあたる三〇五二万五〇〇〇円の仲介報酬を、売買成立の日である同年九月二七日及び所有権移転登記のなされた昭和四五年六月三〇日にその半額ずつの支払を求める権利を有する。

(二) 昭和四四年五月二七日の仲介契約に基づく仲介報酬請求権(第二次主張)

(1) 被告物件の売買契約は外形上新泉興産を買主として、被告と同社との間で締結されたが、新泉興産を買主とすることは単に便宜に出たもので、真実の買主は鹿島建設であり、仮にそうでないとしても、鹿島建設の意向に従い、またはその了解のもとに、新泉興産が買主の地位についたものである。

(2) そして、原告が被告の委任に基づき数ヶ月にわたってした仲介斡旋と右売買契約との間には明らかに因果関係があるから、原告は被告に対し右(一)と同一内容の仲介報酬請求権を有する。

(三) 仲介妨害による仲介報酬請求権(第三次主張)

(1) 右(一)(二)の主張が認められないとしても、原、被告間に成立した被告物件売買に関する仲介契約は、被告と鹿島建設との間に売買契約が成立することを停止条件として、被告が売買代金額の三パーセントに相当する仲介報酬を原告に支払うことを内容とするものであるところ、被告は、前記のように昭和四四年七月下旬ないし八月上旬頃から秘かに新泉興産への売却交渉を行ない、同社への売却が鹿島建設への売却よりも有利と判断するや、鹿島建設への売却条件を一方的に変更して坪単価二九九万円とする承諾書を発行し、原告をして右価格による仲介に奔走させ、鹿島建設との交渉を決裂に導くと共に、他方、原告を排除して新泉興産との売買交渉を進め、同会社との売買契約を成立させるに至った。

(2) 被告は、右のような意図的な妨害行為により、原告の仲介による鹿島建設への売却を不可能ならしめ、前記停止条件の成就を妨げたもので、右妨害が信義則に違反することは明らかであるから、原告は、民法一三〇条により、右停止条件が成就したものとみなして、条件不成就が確実となった同年九月二八日、約定に係る仲介報酬請求権を取得したというべきである。

(四) 民法六四八条三項の類推適用による仲介報酬請求権(第四次主張)

(1) 仮に以上の主張が認められないとしても、原告は被告に対し、次の理由により仲介報酬請求権を有する。

不動産仲介業者が仲介契約に基づいて仲介斡旋を行なっている途中で、委託者が、右仲介斡旋とは無関係に目的物件を第三者に売却したり、あるいは一方的に売却を拒絶したりしたような場合の如く、売買が仲介業者の責に帰すべからざる事由によって成立しなかったときは、仲介業者は、民法六四八条三項の類推適用により、「割合報酬」たる性格の仲介報酬請求権を有するというべきである。

不動産仲介契約は、民法に定める委任契約そのものではなく、無名契約であるが、不動産仲介業者は商人であるから、他人間の不動産取引の仲介に尽力すれば、商法五一二条によりつねに報酬請求権が発生するものと解すべきであり、仲介が仮に成功しなかったとしても、民法六四八条三項の類推適用が認められると解すべきである。

(2) 原告は、被告との仲介契約に基づき、被告物件の売却の仲介斡旋に奔走し、多額の費用を出捐して鹿島建設との売買の成立に努力したが、被告が、原告を排除して新泉興産との売却交渉を進めて、同会社との間で被告物件の売買契約を成立させたために、すなわち、原告の責に帰すべからざる事由によって、仲介契約がその半途で終了するのやむなきに至ったものであるから、被告は原告に対し、民法六四八条三項の類推適用により、「既になしたる履行の割合に応じて」仲介報酬請求権を取得するに至った。

(3) しかして、原告が被告物件についてした仲介の割合は、鹿島建設が被告の示した売却条件で被告物件を買受ける旨を表明し、売買において最も重要な代金額についての合意が成立して、被告会社の本社用地の代替物件が見つかれば、あとは契約書作成を残すだけの段階に達していたのであって、被告が原告に示していた売却条件をつり上げさえしなければ、鹿島建設との間で売買が成立したことは確実であったと考えられるから、仲介が成功した場合と同様の一〇〇パーセントであり、したがって、原告が取得した仲介報酬請求権の額は、仲介契約上の売却条件である代金額九億九〇八六万円の三パーセントに相当する金額であるというべきである。

2 丸紅飯田物件について。

(一) 仲介契約の条件成就による仲介報酬請求権(第一次主張)

(1) 不動産取引仲介の委託者が、仲介業者を出しぬいて直接相手方と交渉して売買契約を締結した場合でも、仲介業者のした仲介行為と売買の成立との間に相当因果関係の存在が認められる以上、仲介業者は所定の報酬請求権を取得すると解すべきである。

(2) 本件の場合、丸紅飯田物件は大沢商会物件に次ぐ第二候補として原告が被告に紹介したものであり、原告は、現地案内をし、丸紅飯田側の仲介業者である漆原不動産と売却条件について接渉し、昭和四四年八月五日には、大木に対し、漆原不動産から入手した丸紅飯田物件の公図写し、各階坪数明細書等の資料を交付した。

(3) その後、被告は、原告を出し抜いて直接丸紅飯田と交渉し、結局昭和四五年一月一三日原告が仲介斡旋していた代金額一八億五〇〇〇万円で売買を成立させたが、原告がした右のような仲介斡旋と右売買成立との間には、被告の直接交渉が介在したものの、相当因果関係があるというべきであり、したがって、原告は被告に対し、右売買代金額一八億五〇〇〇万円の三パーセントに相当する五五五〇万円の仲介報酬請求権を有し、被告は原告に対し、売買契約成立の日である昭和四五年一月一三日及び所有権移転登記のなされた同年四月一日に各半額を支払う義務がある。

(二) 昭和四四年八月二九日の合意に基づく仲介報酬請求権(第二次主張)

(1) 前記のとおり、大木は、昭和四四年八月二九日渡辺に対し、原告が丸紅飯田物件の売買の件から手を引いてくれれば、約束どおり三パーセントの仲介報酬を支払う旨言明した。

(2) したがって、原告は被告に対し、右合意に基づき、右(一)と同一内容の仲介報酬請求権を有する。

(三) 仲介妨害による仲介報酬請求権(第三次主張)

仮に右(一)(二)の主張が認められないとしても、被告は、丸紅飯田物件の買取りについて原告に仲介を委任しておきながら、原告を抜いて直接丸紅飯田との間で売買を成立させたのであるから、原告は、民法一三〇条により、原告の仲介によって売買が成立したものとみなして、売買代金額の三パーセントに相当する仲介報酬を請求する権利を取得し、被告はこれを支払う義務がある。

(四) 民法六四八条三項の類推適用による仲介報酬請求権(第四次主張)

(1) 仮に以上の主張が認められないとしても、原告は被告に対し、次の理由により仲介報酬請求権を有する。

前述のとおり、原告は、被告会社本社用地の代替物件として丸紅飯田物件を被告に紹介し、現地案内をしたほか、丸紅飯田側の仲介業者漆原不動産から入手した資料を交付した。原告は、これら資料を検討した上で丸紅飯田物件を買取る方針を決定し、交渉の末丸紅飯田と売買契約を締結したのであり、仮に被告主張のとおり被告会社取締役の太田良助と丸紅飯田の石井取締役との交渉が原告の仲介とは別個になされたとしても、原告が丸紅飯田物件の情報と資料を提供したことが右売買成立の大きな要因となったのであるから、原告は、商法五一二条と、民法六四八条三項の類推適用により、貢献度に応ずる仲介報酬請求権を有するというべきである。

(2) そして、その額は、売買代金額一八億五〇〇〇万円の三パーセントにあたる五五五〇万円の七割の三八八五万円とするのが相当である。

五  結論

よって、原告は被告に対し、被告物件に関する仲介報酬三〇五二万五〇〇〇円と丸紅飯田物件に関する仲介報酬五五五〇万円の合計八六〇二万五〇〇〇円及び各内金に対するその履行期の翌日以降各完済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する答弁)

一  請求原因第一項の事実は認める。

二1  請求原因第二項1のうち、昭和四四年二月三日頃大木と渡辺が面会した事実は認めるが、その余の事実は否認する。

2  同2の事実は否認する。

3  同3のうち、同年五月二七日頃大木、沢木両名が面会した事実は認めるが、その余の事実は否認する。

4  同4、5の事実は否認する。

5  同6のうち、原告代表者が被告代表者に対し丸紅飯田物件が売りに出ていることを知らせた事実は認めるが、その余の事実は否認する。

6  同7、8の事実は否認する。

7  同9のうち、被告が、昭和四四年八月二九日鹿島建設に対し、原告主張のような承諾書を差入れた事実は認めるが、その余の事実は否認する。

8  同10の事実は否認する。

9  同11のうち、被告が丸紅飯田物件についての原告の介入を断った事実は認めるが、その余の事実は否認する。

10  同12のうち、昭和四四年九月二七日被告と新泉興産の間において、新泉興産が被告物件を坪当り二七五万円、代金総額一〇億一七五〇万円で被告から買受ける旨の売買契約が成立し、昭和四五年六月三〇日所有権移転登記が経由された事実は認めるが、その余の事実は否認する。

11  同13の事実は、所有権移転登記の時期の点を除き、認める。

三  本件取引の経過に関する被告の主張は次のとおりである。

1 被告物件の売却については、当初訴外宮井治彦が被告と鹿島建設の間の仲介斡旋に着手しており、原告代表者渡辺は、昭和四四年二月三日頃、訴外宮井に同道されて右交渉当事者と面識を有するに至った。

2 同年三月亦訴外宮井は右売買の件から手を引き、その後交渉が中断していたところ、渡辺が表面に現われ、同年五月二七日大木と沢木が面談したが、その席では売買に関する具体的な話はなく、沢木が大木に対し、鹿島建設への被告物件売却の意向を打診し、これに対し大木が「他に計画もあるが譲らぬでもない。」旨返答したにすぎなかった。

3 もともと被告は、被告物件を売却するについては、税法上の特典を利用する関係上、その売却代金をもって代替の土地建物を買取れること及び右代替物件取得について不動産業者に対する仲介報酬その他の金員の支出を要しないことを条件としており、渡辺も被告の右方針を熟知し、かつ、承諾していた。

4 同年六月下旬頃、渡辺が、「鹿島建設において、大沢商会物件を買取った上これと被告物件とを交換することを計画しているので、これについての鹿島建設宛の承諾書を出して貰いたい。」旨被告に申入れてきたので、被告は、右売買、交換の計画が鹿島建設の立案した方針であると信じ、かつ、「鹿島建設は、大沢商会に対して強力な発言権と影響力をもっている。」旨の渡辺の言葉を信じて、「大沢商会物件を、被告物件と等価交換することを条件として、九億六二〇〇万円で買受けることを承諾する。」旨の同月三〇日付鹿島建設宛承諾書(乙第二号証)を原告を介して鹿島建設に交付するとともに、渡辺の求めにより、「被告物件を九億六二〇〇万円にその三パーセントに相当する仲介報酬二八八六万円を上乗せした九億九〇八六万円で鹿島建設に売却することを承諾する。ただし、右売却は、大沢商会物件を九億六二〇〇万円で買受けることを条件とする。」旨の右同日付承諾書(乙第三号証)及び「大沢商会物件を、被告物件売却の条件として、九億六二〇〇万円で買受けることを依頼する。」旨の同年七月九日付依頼書(乙第四号証)を原告に交付した。

5 このように、原、被告間には、被告物件を鹿島建設に売却するについては、その仲介斡旋に対する報酬として、東京都の宅地建物取引業報酬規定の最高額である売買代金の三パーセントに相当する金額を支払う代りに、代替物件の購入に関しては、その仲介斡旋に対して報酬を支払わない旨の合意が成立していた。

6 同年七月末日頃、渡辺は、神田須田町にある丸紅飯田物件が一八億円で売りに出ているとの情報を被告にもたらし、同年八月五日公図の写しのコピーと丸紅飯田物件の面積を記載したメモのコピーを持参した。

7 これに対し被告は、被告会社太田良助取締役が常時丸紅飯田に出入りしていて丸紅飯田物件売却の噂も聞いていた関係上、「丸紅飯田所有の物件であるからには、当社に特別のルートがあるので手を出さないで貰いたい。当方で当ってみる。」旨申入れて原告の介入を拒絶し、渡辺もこれを承諾した。

8 被告は、右太田良助取締役を丸紅飯田に派遣して、同人と同じ富士銀行の出身である同会社の石井専務取締役との間で交渉を進めた結果、同月二七日に至って丸紅飯田から売買価額を一八億五〇〇〇万円とする旨の具体的条件の提示があり、さらに同月二九日には「他に有力な買受け希望会社もあるが、貴社を優先的に考慮するので、九月一〇日までに買取りについて確答されたい。」旨の申入れがなされた。

ここに至って、被告としては、他の有力な買受希望者を置いて優先的に売却交渉を継続してくれるという丸紅飯田の厚意に対する関係上、鹿島建設及び大沢商会との前記交換問題についての結論を急ぎ、他方その時まで放置していた第三者に対する被告物件の売却についても積極的に取り組まなければならないという状況に立ち至ったのである。

9 ところで、被告は、鹿島建設との交渉については渡辺に一任していたので、同人の報告に基づき、鹿島建設が是が非でも被告物件を取得したいとの意向であり、それ故に大沢商会に対しても前記交換問題について強力に交渉を進めているものと信じており、他方大沢商会がその所有物件の売値一一億円を下げようとしないことを渡辺から聞いていた関係上、被告物件を大沢商会物件と等価交換するにせよ、あるいは丸紅飯田物件を購入するにせよ、被告物件をより高額で鹿島建設に買取って貰うことが先決であると考え、渡辺の指示に基づき、同月二九日頃、被告物件を坪当り二九九万円、代金総額一一億〇六三〇万円で鹿島建設に売却することを承諾する旨の承諾書(乙第八号証)を渡辺を通じて鹿島建設に差入れた。

10 右同日、かねて原告とは無関係に訴外樋口税理士を通じて被告物件の買受け希望を表明していた新泉興産から、訴外大一不動産株式会社を通じて、是非買取りたい旨の正式申入れがあり、被告としては、鹿島建設と新泉興産の両者との間で被告物件売却の交渉を持つこととなったが、なお鹿島建設を最優先に考えていた。

11 しかるに、前記丸紅飯田に対する回答期限の二日前である同年九月八日になって、鹿島建設から正式に被告物件買取り辞退の申出があったため、被告は、急きょ新泉興産との交渉を進め、同月一〇日、被告代表者大木と新泉興産代表者倉知善一が面談した結果、被告物件を代金総額一〇億一七五〇万円で同会社に売却することになり、直ちに丸紅飯田に対して、丸紅飯田物件を前に提示された条件で買受けたい旨申入れ、同社の承諾を得ることに成功したのである。

12 しかして、同月二七日被告と新泉興産との間で売買契約書が作成調印され、被告丸紅飯田と被告との間では昭和四五年一月一三日売買契約書が作成調印されたのである。

四1  請求原因第三項1の事実は否認する。

2  同2(一)ないし(四)の事実は否認する。

五1  請求原因第四項1(一)の事実は否認する。

2  同(二)の事実は否認する。

3  同(三)(1)のうち、被告が鹿島建設への売却条件を変更して坪単価二九九万円とする承諾書を発行したこと及び被告が新泉興産との間で売買契約を締結したことは認めるが、その余の事実は否認する。同(2)は争う。

被告と新泉興産との売買交渉は、鹿島建設から被告物件の買取りを断わられるまでは全く内々のものであって、鹿島建設の態度決定に何らの影響を及ぼすものではなかったし、被告が坪当り二九九万円に言値を変えたことも、わずか一割値上げをしたにとどまるのであって、通常の取引においても妨害行為となるものではない。また、鹿島建設が被告物件の買取りを辞退したのは、被告と新泉興産との内々の売買交渉が存在することあるいは被告が言値を上げたことによるのではなく、鹿島建設が被告物件と共に本社ビル用地として買収を計画していた同社所有地周辺の土地のうち、被告物件と同社所有地との間にある土地の地主が土地を売却する見込みが立たなかったため、被告物件だけを買収する実益がないとの理由によるものである。さらに、被告は、鹿島建設から買取り辞退の申出がある瞬間まで、原告代表者の言を信じて鹿島建設との売買成立を期待していたのであり、前記承諾書も、原告代表者の指示に従い、その仲介斡旋に協力するために作成、交付したものであり、また、被告が新泉興産からの問い合わせに対し内々に応対したことは、常識的に考えても信義則に反するものではなく(わが国においては、同時に複数の仲介業者に不動産取引の仲介を依頼することさえできるのが慣習である。)、前記のような事情のもとでは、被告が言値を上げることはやむを得ないところである。

右のように、本件の場合、民法一三〇条適用のために必要な、(イ)条件成就によって不利益を受ける当事者が条件成就を妨害したこと、(ロ)故意に妨害したこと、(ハ)妨害によって条件が不成就となったこと、(ニ)条件成就の妨害が信義則に反することのいずれの要件も満たさないことが明らかである。

4  同(四)(1)の主張は争う。

同(2)のうち、原告が被告物件の鹿島建設への売却について仲介をしたこと及び被告が新泉興産との間で売買契約を締結したことは認めるが、その余の事実は否認する。同(3)の事実は否認する。

原告の鹿島建設への仲介が終了したのは、被告が被告物件を新泉興産に売ったからではなく、前述のような経過で鹿島建設が昭和四四年九月八日に被告物件の買取りを断わったからであり、このことによって原告の鹿島建設に対する仲介の履行が不能となり、したがって原、被告間の仲介契約も契約一般の終了原因によって最終的に終了したのであるから、原告の仲介がその「半途」で終了したというのはあたらない。このような場合にまで報酬請求権があると解することは、目的を達成したら報酬を払う、達成しなければ払わないという不動産仲介契約の本質に反する結果になる。

5  請求原因第四項2(一)(1)の主張は争う。

同(2)のうち、原告が、丸紅飯田物件を大沢商会物件に次ぐ第二候補として被告に紹介し、現地案内をし、公図写し、各階坪数明細書のコピー(乙第一一、一二号証)を交付したことは認めるが、その余の事実は否認する。

同(3)のうち、被告が、丸紅飯田と交渉し、昭和四五年一月一三日丸紅飯田物件を代金一八億五〇〇〇万円で同会社から買受ける旨の売買契約を成立させたことは認めるが、その余の事実は否認する。

6  同(二)(1)の事実は否認する。(2)は争う。

7  同(三)は争う。

8  同(四)(1)の事実は否認する。同(2)は争う。

六  請求原因第六項は争う。

(抗弁)

一  仮に丸紅飯田物件についての仲介契約の成立が認められるとしても、被告は、前記本件取引の経過に関する被告の主張7のとおり、丸紅飯田物件購入についての原告の仲介斡旋を拒絶し、原告もこれを承諾したから、右仲介契約は合意解除された。

二1  仮に丸紅飯田物件購入について、原告に報酬請求権が認められるとしても、原、被告は、昭和四四年一二月二四日、右仲介、報酬の額を八〇〇万円とする旨の合意をした。

2  したがって、被告には右金額をこえる仲介報酬の支払義務はないところ、原告は右の日の直後からその受領を拒絶して受領遅滞に陥っているので、被告には右金員に対する遅延損害金を支払う義務はない。

(抗弁に対する答弁)

一 抗弁第一項の事実は否認する。

二 同第二項1、2の事実は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》を総合すると、以下のような事実が認められる。

1  被告物件の売却については、昭和四三年七月頃から、当時訴外日本信託銀行株式会社本店不動産部の課長代理をしていた訴外宮井治彦、訴外沢建設株式会社及び原告代表者渡辺が、被告に売却計画のあることを察知してその仲介斡旋に着手し、訴外沢建設株式会社が中心となって、鹿島建設に対する買取りの意向打診にあたっていた。(この間、昭和四四年二月三日頃、原告代表者渡辺が被告代表者大木と面会したことは、当事者間に争いがない。)

2  同年三月末頃訴外宮井及び訴外沢建設株式会社が右売買の件から手を引き、その後原告が表面に出て仲介斡旋を続けた結果、同年五月二七日、鹿島建設不動産管理部長沢木康が被告代表者大木を訪ね、原告代表者渡辺立会いのもとに、鹿島建設に被告物件買取りの意向のあることを正式に表明し、大木も鹿島建設への売却を優先的に考慮する用意のあることを返答した。(右同日沢木と大木が面会した事実は、当事者間に争いがない。)

3  被告は、被告物件を売却するについては、当時の租税特別措置法上の優遇措置を利用して課税を免れるために、その売却代金と同価格で代替の被告会社本社社屋及びその用地となるべき物件を取得できること及び被告物件の売却と代替物件の取得に関して不動産業者に支払うべき仲介手数料が被告の負担とならないよう、被告物件の売却に関する仲介手数料は売買価格に上乗せして買主の負担となるようにし、代替物件取得に関する仲介手数料は支払わないことを条件としており、そのことを原告代表者渡辺にも明らかにして、代替物件の発見及びその取得についての仲介斡旋をも依頼していた。

4  他方鹿島建設は、本社社屋増築のための用地として被告物件の取得を企図していたが、被告物件だけでは右用地として十分な面積が得られないところから、被告物件周辺の第三者所有地を併せて買収する必要があり、被告物件の買収交渉とは別に右第三者所有地の買収交渉を進めていたが、容易に売却に応じない地主がいたため、右買収工作は難航していた。

5  原告代表者渡辺は、被告物件の代替物件として被告に紹介できる物件を物色していたが、大沢商会が港区桜川町に所有していた土地建物(大沢商会物件)を売却する計画を有していることを探知し、同年六月下旬頃、これを第一候補として被告に紹介し、被告代表者を現地に案内して大沢商会の社長及び担当の総務課長と面談させ、かつ、実地に見分させた。

6  そして、渡辺は、当時の鹿島建設代表者が大沢商会の役員を兼ねるなど、両社が密接な関係を有していることに着目し、大沢商会物件を鹿島建設に買収させて、これと被告物件とを等価で交換する方法をとれば、被告の前記3のような目的が達成できると考え、鹿島建設に対して大沢商会に対する工作を依頼する一方、被告に対して右方法をとることを建言し、被告もこれを了承した。

そこで、被告は、右取引を進めるために必要であるとの渡辺の求めにより、「大沢商会物件を、被告物件と等価交換することを条件として、九億六二〇〇万円で買受けることを承諾する。」旨の同月三〇日付鹿島建設宛承諾書(乙第二号証)を、原告を介して鹿島建設に交付するとともに、「被告物件を、九億六二〇〇万円にその三パーセントに相当する仲介手数料分二八八六万円を上乗せした九億九〇八六万円で鹿島建設に売却することを承諾する。ただし、大沢商会物件との等価交換を条件とする。」旨の同日付原告宛承諾書(甲第一号証、乙第三号証)及び「大沢商会物件を、被告物件を売却する条件として、九億六二〇〇万円で買受けることを依頼する。」旨の同年七月九日付原告宛依頼書(甲第二号証、乙第四号証)を原告に交付した。

7  その後渡辺は、千代田区神田須田町にある丸紅飯田物件が売りに出されていることを聞知し、同年七月下旬頃右情報を被告に伝えるとともに、同年八月五日頃、同業者から入手した丸紅飯田物件に関する公図の写しと坪数明細書のコピー(乙第一一、第一二号証)を被告代表者大木に交付し、その頃大木を現地に案内して見分させた。(渡辺が、丸紅飯田物件が売りに出されていることを大木に知らせた事実は、当事者間に争いがない。)

8  その際大木は、被告会社と丸紅飯田とが同じ富士銀行グループに属しており、被告会社の太田良助常務取締役が同銀行出身者で、丸紅飯田にも同銀行出身の役員がいるところから、丸紅飯田とは右太田のルートを通じて直接交渉した方がよいと考え、渡辺に対し、「丸紅飯田とは同じ富士グループで近しい間柄にあり、いろんな取引もあるので、こちらで交渉してみるから、あなたは手を出さないで貰いたい。」旨述べて原告の関与を断った。これに対し、渡辺もこれを了承し、自分は鹿島建設及び大沢商会との交渉に専念する旨言明した。(被告が丸紅飯田物件について原告の介入を断った事実は、当事者間に争いがない。)

9  大木はその後右太田をして丸紅飯田との交渉にあたらせたが、同会社では、他に有力な買受希望会社があり、最も有力な交渉先であった訴外住友生命に対する売却が半ば内定していたところから、被告に対する売却交渉に難色を示した。しかし、右太田が同じ富士銀行出身者である丸紅飯田の石井専務取締役と交渉を続けた結果、八月二九日に至って、同会社から「他に有力な買受希望者があるが、被告と優先的に交渉するので、九月一〇日までに買取るか否かを確答されたい。売買代金額は居抜きで一八億五〇〇〇万円とする。」旨の申入れが被告会社宛になされた。

10  これより先の同月一九日頃、大沢商会物件は第三者に売却することにした旨の連絡が大沢商会から鹿島建設にあり、前記等価交換は実現不能となったが、被告にはその事実が知らされておらず、被告に対しては、渡辺から、大沢商会は一一億円以下では売らないとの意向を示しているとの情報しか伝えられていなかった。

11  被告は、丸紅飯田から前記のような申入れを受けるに及んで、同会社から示された最終回答期限の同年九月一〇日までに被告物件の売却交渉をまとめなければならない立場に立ったところから、鹿島建設との交渉を急ぐ必要に迫られ、かたがた、丸紅飯田の示した売却条件が前記のように高額であったため、鹿島建設に対する売却条件を引き上げるほかないとして、渡辺と相談のうえ、被告物件の売買代金を坪当り二九九万円に値上げすることとし、あらためて「被告物件を坪当り二九九万円、総額一一億〇六三〇万円で売却することを承諾する。ただし、同年九月八日までに契約を完了することを条件とする。」旨の八月二九日付鹿島建設宛承諾書(甲第三九号証、乙第八号証)を作成して、原告を通じて鹿島建設に交付した。(被告が右承諾書を鹿島建設に差入れた事実は、当事者間に争いがない。)

12  これに対し鹿島建設は、被告物件買収について最終的に検討を加えた結果、そもそも交渉の当初から被告の言値が高すぎると考えていたことに加えて、被告物件周辺の前記第三者所有地の買収交渉が思うように進まず、この時点で被告物件を買収しても、前記利用計画に齟齬をきたすおそれがあると判断されたところから、被告物件の買収を辞退することとし、九月八日その旨を被告に正式に申入れた。

13  これより先の同年八月中旬頃、被告会社の税務関係の願問をしている訴外樋口税理士の紹介により、新泉興産及びその依頼によって不動産取引の仲介をしている訴外大一不動産株式会社(以下単に大一不動産という。)が、被告物件買取りの意思のあることを表明し、同月下旬頃からは、大一不動産を介して、新泉興産と被告との間で被告物件の売買交渉が内々に進められていた。

そこで被告は、鹿島建設の買取り辞退に伴い、急きょ新泉興産との売却交渉を急ぐことになり、売却条件についての交渉を詰めた結果、丸紅飯田に対する回答期限の同月一〇日、被告物件を坪当り二七五万円、代金総額一〇億一七五〇万円で新泉興産に売渡す旨の合意が両社間に成立し、被告は、直ちに丸紅飯田に対し、丸紅飯田物件をさきに同社から提示された条件で買受ける旨の申入れをし、同社もこれを承諾した。

14  かくして、同月二七日被告と新泉興産との間で右内容による被告物件の売買契約が締結され、昭和四五年七月三日新泉興産への所有権移転登記が経由された。また、丸紅飯田物件については、昭和四五年一月一三日被告と丸紅飯田との間で前記内容による売買契約が締結された。(以上の事実は当事者間に争いがない。)なお、丸紅飯田物件についての売買契約締結が遅れたのは、前記住友生命に対する調整工作を必要としたためで、その間には原告による仲介斡旋は介在していない。

以上のように認められ(る)。《証拠判断省略》

三1  右認定の事実によれば、原、被告間には、遅くとも昭和四四年六月下旬頃には、被告物件の売却に関する仲介契約が成立していたものと認められる。

2  また、一般に、不動産の買受けを希望する者が不動産業者に仲介を委託する場合には、依頼者が当初から特定の物件を指定してその売買の仲介斡旋を依頼する場合と、依頼者が希望する条件(たとえば、所在地、面積、利用目的、価格など)を示し、これに適合する物件の探知、紹介、価格等についての折衝、売買契約締結の仲介斡旋を依頼する場合とがあり得るが、後者の場合には、特段の事情のない限り、依頼者が希望条件を示してその買受け方の仲介斡旋を依頼し、不動産業者がこれを承諾すれば、右希望条件に適合する物件が未だ特定されていなくても、仲介契約は右承諾のなされた時に成立するものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、前記認定事実によれば、被告は、遅くとも昭和四四年六月下旬頃までには、原告に対し、価格、利用目的等の希望条件を示して、これに適合する物件の買受けについて仲介斡旋を依頼し、被告がこれを承諾していたものと認められるから、既にこの時点で仲介契約が両者間に成立していたものと認めるのが相当である。

3  被告は、被告が丸紅飯田物件の買受交渉について原告の介入を拒絶し、原告がこれを承諾したことにより、原、被告間の仲介契約は合意解除された旨主張する。

なるほど、被告代表者大木が、丸紅飯田物件の買受けについては自ら直接交渉するのが得策と考えて原告の関与を断り、原告代表者渡辺もこれを了承したことはさきに認定したとおりであるが、右にみたように、原、被告間の仲介契約は、原告が被告の前記のような希望条件に適合する物件の探知、紹介を含めた売買の仲介斡旋をすることを内容とするものであって、依頼内容を丸紅飯田物件という特定の物件の買受けの仲介斡旋に限定した契約ではなく、だからこそ原告は、右契約の趣旨に従い、まず大沢商会物件を、次いで丸紅飯田物件を被告に紹介し、被告から丸紅飯田物件についての売買交渉に関与しないよう要求されてこれを了承した後も、大沢商会物件が取得できるよう仲介斡旋を続けたものと認められるから、被告が丸紅飯田物件に関する爾後の売買交渉に原告が関与することを断ったからといって、右仲介契約そのものが解除されたとみるのは当を得ないというべきである。

したがって、被告の前記抗弁は理由がない。

四  そこで、前記認定事実に基づき、まず被告物件の売却に関する仲介報酬請求権の成否について考える。

1  不動産取引の仲介を目的とする契約は、他人間の取引契約の媒介を引受ける契約すなわち仲立契約であるが、大量かつ反覆的な取引の目的となる商品又は有価証券と異なり、流通性に乏しく、通常の場合商取引の対象とするに適さない不動産を目的とするものであるから、これを商人である宅地建物取引業者(商法五〇二条一一号、四条)が行なう場合であっても、「他人間の商取引の媒介」を目的とする商事仲立(同法五四三条)ではなく、民事仲立であると解されるが、受託者は媒介を依頼された取引契約の成立に尽力する義務を負い、委託者は契約の成立に対して報酬を支払うという仲立契約の性質は、商事仲立であると民事仲立であるとで差異はないと考えられるから、商事仲立人の報酬請求権に関する商法五五〇条一項の規定は、民事仲立についてもこれを類推適用すべきものと解するのが相当である。したがって、宅地建物取引業者が仲介による報酬を請求し得るためには、その仲介によって取引契約が成立したこと、すなわち仲介と取引契約成立との間に因果関係が存在することを要するのであり、業者が仲介に尽力しても結局取引が成立するに至らなかったとき、あるいは、取引が成立しても、それが当該業者の仲介によらないで成立するに至ったものであるときには、そのような場合にも報酬を支払う旨の特約があるとか、依頼者が信義則に反する目的と方法によりその依頼した業者を排除した取引を成立させたために、信義則上報酬請求権を認めるのを相当とするような特段の事情がある場合を除き、仲介業者は依頼者に対する報酬請求権を取得しないものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、前記認定事実によれば、原告は、被告から被告物件売却の仲介の依頼を受けて、鹿島建設に対する売却の仲介斡旋に尽力したけれども、被告物件は、原告のした右仲介斡旋とは無関係に、大一不動産の仲介により、被告から新泉興産に売渡されたことが明らかであるから、原告のした仲介斡旋と右売買契約成立との間には因果関係がなく、したがって、特段の事情の認められない限り、原告は被告に対する仲介報酬請求権を有しないものというほかはない。

原告は、被告物件の売買契約を外形上新泉興産を買主として被告と同会社との間で締結されたが、新泉興産を買主とすることは単に便宜に出たもので、真実の買主は鹿島建設であり、仮にそうでないとしても、鹿島建設の意向に従い又はその了解のもとに新泉興産が買主の地位についたものであるから、原告は被告に対し報酬請求権を有する旨主張するが、(第二次主張)、右主張に副う《証拠省略》は、《証拠省略》と対比して措信できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

2  そこで、原告のした仲介と売買契約成立との間に因果関係が認められないにもかかわらず、原告に報酬請求権を認むべき特段の事情の存否を検討する。

(一)  原告は、被告代表者大木が原告代表者渡辺に対し、昭和四四年九月四日、新泉興産との間で売買契約が成立した場合にも、鹿島建設との間で売買が成立した場合と同様に、売買代金額の三パーセントに相当する仲介手数料(報酬)を支払うことを約した旨特約の存在を主張するが(第一次主張)、右主張に副う《証拠省略》は、《証拠省略》と対比して措信できず、他に右特約の存在を認めるに足りる証拠はない。

(二)  次に、原告は、被告が原告の仲介による鹿島建設との売買契約の成立を故意に妨げたとして、民法一三〇条による仲介報酬権の成立を主張する。(第三次主張)

前にみたように、仲介契約においては、仲介による取引契約の成立に対して報酬請求権が認められるのであって、仲介報酬請求権の成否が仲介による取引契約の成立という将来の不確定な事実の成否にかかっているから、仲介報酬請求権は一種の停止条件付権利とみることができる。そして、仲介を依頼した仲介業者から物件もしくは取引の相手方を紹介されて取引契約成立の機縁を得たのに、これを排除して相手方との直接取引によって取引契約を成立させ、仲介業者に対する報酬の支払を免れることは、著しく信義則に反するというべきであるから、このように、停止条件の成就によって不利益を受ける者すなわち仲介依頼者が、故意に、かつ、信義則に違反して仲介業者の仲介による取引契約の成立を妨害したときは、仲介業者は、民法一三〇条により、自己の仲介によって取引契約が成立したものとみなして、報酬を請求することができるものというべきである。もっとも、仲介契約においては、それがいわゆる専属的仲介契約である場合や仲介人が取引契約についての代理権をも併せて付与された場合のような特別の場合を除き、仲介人が適当な物件や取引の相手方を紹介しても、仲介委託者はこれと取引しなければならない拘束を受けるものではなく、取引すると否とは全く委託者の自由であるし、委託者は、仲介人に仲介を依頼しておきながら、自ら別個に取引の相手方を探して直接これと取引契約を成立させることもでき、また、複数の仲介人に同一内容の仲介依頼をしておいて、自己に最も有利な条件を提示した仲介人を選択して取引を成立させることも自由であって、仲介委託者がかかる行為に出たために仲介人の仲介の結果が仮に無に帰したとしても、それは仲介契約の本質からみてやむを得ないことであり、原則として信義則に違反するものではないというべきであるから、このような場合には、外形上仲介業者の仲介報酬請求権の成立が妨げられてはいるが、前記民法一三〇条の法理は適用されないものというべきである。

そこで、これを本件についてみるに、さきに認定したとおり、原告の仲介斡旋にもかかわらず被告と鹿島建設との間に被告物件の売買契約が成立するに至らなかったのは、鹿島建設が前示のような理由によって買取りを辞退したためであって、右買取り辞退の理由もそれ自体十分首肯するに足りる合理的なものであるし、被告が昭和四四年八月二九日付承諾書をもって被告物件の売却価格を坪当り二九九万円に増額した点に関しても、本件全証拠を検討してみても、被告が、原告に対する仲介報酬の支払を免れる目的で、鹿島建設を買取り辞退に追い込むためにあえて売却条件の釣り上げを行ない、しかもそのことが鹿島建設の買取り辞退の決定的な動機となったものであるとは到底認めることができない。前記認定事実によれば、被告は、原告に依頼して鹿島建設との売買交渉を進めさせる一方、たまたま別のルートで被告物件の買受けを申し出てきた新泉興産とも大一不動産を仲介人として売買交渉を進めていたところ、丸紅飯田が設定した丸紅飯田物件買取りについての交渉期限が迫り、早急に被告物件の売却先を決定して売買を成立させる必要に迫られていた矢先、鹿島建設が買取りを辞退したために、新泉興産との交渉を急ぎ、同社との間で売買契約を成立させたものであって、被告が、原告に対する仲介報酬の支払を免れる目的で、ことさら原告を排除して新泉興産との売買契約を成立させたものとは到底認め難く、被告が右のような取引行為に出たことは何ら信義則に反するものではないというべきである。

そうとすれば、本件においては、前記民法一三〇条の法理を適用すべき前提条件を欠くことが明らかであるから、右法理による仲介報酬請求権の成立をいう原告の主張は採用できない。

(三)  次に、原告は、民法六四八条三項の類推適用による「割合報酬」としての仲介報酬請求権を主張する。(第四次主張)

不動産取引の仲介契約は、他人間の不動産売買等の法律行為の仲介を目的とするが、仲介行為そのものは媒介という事実行為であるから、その性質は準委任と解され、したがって、仲介契約の性質に反しない限り、民法の委任に関する規定が適用される。しかし、さきにみたように、仲介契約においては、原則として、委託者は、仲介人のもたらした物件や相手方について取引を成立させる義務を負わないばかりでなく、仲介人に仲介を依頼しておきながら、自ら別個に探索した取引の相手方や物件について取引を成立させることも自由であり、さらに、複数の仲介人に同一内容の仲介を依頼しておき、自己に最も有利な条件を提示した仲介人を選択して取引を成立させることもできるのであって、これらの場合、自己の仲介の結果を利用されなかった仲介人の側からすれば、委任が自己の責に帰すべからざる事由によってその履行の半途において終了するのと同様の結果となることは否定できないけれども、右のような場合には、仲介人が支出した費用又は報酬を支払う旨の特約がある場合は格別、そうでない限り、仲介人は、その仲介によって取引契約が成立したときにはじめてこれに対して仲介報酬請求権が発生するという仲介契約の性質からして、仲介報酬請求権を取得し得ないものと解するほかなく、右のような場合に民法六四八条三項の適用ないし類推適用を認めることは、仲介契約の性質に反するものであって、許されないというべきである。

したがって、仲介契約に民法六四八条三項の類推適用があることを前提とする原告の前記主張は失当であり、採用できない。

3  以上の検討から明らかなように、原告のした仲介と売買契約の成立との間に因果関係が認められないにもかかわらず、原告に被告に対する仲介報酬請求権を肯定すべき特段の事情の存在も認めることができないから、原告は被告に対し、被告物件の売却に関する仲介報酬請求権を有しないというべきである。

五  次に、丸紅飯田物件に関する仲介報酬請求権の成否について判断する。

1  前記認定事実によれば、原告は、被告との間の被告会社本社社屋用不動産買収に関する前示仲介契約に基づき、丸紅飯田物件が売りに出されていることを探知してこれを被告に紹介し、右物件に関する公図の写しと坪数明細書のコピーを入手して被告に交付するとともに、被告代表者を現地に案内するなどの仲介行為を行なったのであり、被告が、その後の売買交渉は丸紅飯田との特別な人的つながりを利用して自ら直接行なうのが得策であるとの判断のもとに、原告の関与を断り、自ら交渉を進めて売買契約を成立させたとはいえ、原告のした右のような仲介行為が売買契約成立の重要な機縁となったことは明らかである。

したがって、原告のした仲介行為と右売買契約成立との間には因果関係があると認めるのが相当であるから、原告は被告に対し相当の仲介報酬請求権を有するというべきである。

2  そこで、進んでその金額の点について考える。

(一)  被告は、被告物件に代わる被告会社本社社屋用物件の買取りの仲介については、報酬を支払わない旨の特約があった旨主張する。

さきに認定したとおり、被告は、被告物件の売却と代替物件の取得については、不動産業者に対する仲介報酬が被告の負担とならないよう、被告物件の売却に関する仲介報酬は売買価格に上乗せして買主の負担となるようにし、代替物件取得に関する仲介報酬は支払わないことを条件としており、この方針を原告代表者渡辺にも示して、渡辺もこれを了承いたしてものであり、鹿島建設に対する被告物件の売却交渉を原告に依頼するにあたって被告が原告に交付した前記承諾書(甲第一号証、乙第三号証)には、被告の希望する売買代金額の三パーセントに相当する仲介手数料を支払うことを明記し、あわせて右仲介手数料分を売買価格に上乗せして交渉することを求める趣旨が記載されている反面、いわゆる等価交換の対象と目されていた大沢商会物件の取得に関する仲介依頼書(甲第二号証、乙第四号証)には、仲介手数料に関する文言の記載がなされていないことが認められるけれども、右の仲介報酬に関する特約は、原告の仲介により被告物件と代替物件とのいわゆる等価交換が成立し、原告が被告物件の売買に関する約定の仲介報酬を取得できることを当然の前提としているものと解すべきであって、原告の仲介による被告物件の売却が成立するに至らず、原告がこれに関する仲介報酬を取得できない事態までも予想して、かかる場合にも原告に代替物件取得に関する仲介報酬を取得させない趣旨でなされたものとは考えられないから、右特約の効力はかかる場合には及ばないものと解すべきであり、右特約がなされたからといって、被告が原告に対する丸紅飯田物件購入に関する仲介報酬の支払を免れる理由とはなり得ないというべきである。

したがって、被告の前記主張は採用できない。

(二)  原告は、丸紅飯田物件の買受けに関しても、売買代金額の三パーセントに相当する仲介報酬を支払う旨の合意が原、被告間に成立した旨主張するが、右主張に副う《証拠省略》は、《証拠省略》と対比して措信できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(三)  次に、被告は、丸紅飯田物件に関する仲介報酬の額を八〇〇万円とする合意が昭和四四年一二月二四日に原、被告間に成立した旨主張するので判断する。

《証拠省略》を総合すると、原告代表者渡辺は昭和四四年九月下旬頃から被告に対して仲介報酬の支払を請求していたところ、被告は、被告物件売却に関する報酬を支払うべき根拠はないとしつつも、丸紅飯田物件については、原告の紹介によって買受けの機縁が得られたことに鑑み報酬を支払うのもやむを得ないとして、同年一二月二四日、八〇〇万円を原告に支払うことを決定し、原告代表者も一旦はこれを了承して、被告の求めに応じ八〇〇万円の請求書(乙第九号証)を被告に提出したが、翌二五日、取締役会の意向によるとしてこれを撤回し、あらためて一〇〇〇万円の報酬を請求するに至った。そこで、被告においてこれを検討した結果、原告が被告物件売却に関する仲介報酬の請求をしないことなどを確認する念書を差入れることを条件として、これに応じることとしたが、原告代表者が右念書差入れを拒絶したばかりでなく、請求額をさらに増額するなどしたため、結局丸紅飯田物件に関する報酬の金額についての話合いがまとまるに至らなかったことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

してみると、丸紅飯田物件に関する仲介報酬の額についての合意が成立したとする被告の主張は理由がない。

(四)  ところで、宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買又は交換の媒介に関して受けることのできる報酬の額については、宅地建物取引業法四六条及びこれに基づく昭和四五年建設省告示第一五五二号により、依頼者の一方につき、取引額に応じて、二〇〇万円以下の金額につきその一〇〇分の五、二〇〇万円をこえ四〇〇万円以下の金額につきその一〇〇分の四、四〇〇万円をこえる金額につきその一〇〇分の三をこえてはならないとされているが(本件取引のなされた昭和四四年当時は、右告示附則第一項により昭和四〇年建設省告示第一一七四号が適用され、昭和四〇年三月三一日現在において改正前の宅地建物取引業法一七条一項の規定により都道府県知事が定めていた額によることになるが、当時の東京都知事告示による報酬額も右と同様である。)、右告示額は宅地建物取引業者が取得し得る報酬額の最高限度額を定めるものであって、当事者間にその旨の特約があるかあるいは慣習のない限り、当然には右告示最高額による報酬を請求できるものではないと解すべきであり、具体的な場合において当事者間に授受されるべき報酬の額は、右告示最高額の範囲内において、その場合における仲介業者の貢献度すなわち媒介の難易、媒介行為の内容、程度、期間、労力等と取引額その他諸般の事情を斟酌して定めるのが相当である。

そこで、これを本件についてみるに、本件においては報酬額を前記告示最高額とする旨の特約又は慣習はこれを認めるに足りる証拠はなく、さきに認定したように、原告が丸紅飯田物件の売買に関してした媒介行為は、丸紅飯田物件が売りに出されているとの情報を探知して提供し、公図の写しと坪数明細書のコピーを入手して交付し、被告代表者を現地に案内して見分させたにとどまり、その後の売買交渉はすべて被告が自ら行ない、前記のような事情により相当困難な交渉であったにもかかわらず、売買成立にこぎつけたものであること、取引額が一八億五〇〇〇万円と高額であることその他本件にあらわれた諸般の事情を考慮して、被告が丸紅飯田物件の売買に関して原告に支払うべき仲介報酬の額は一〇〇〇万円と認めるのが相当である。

六  そうとすれば、被告は原告に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する丸紅飯田物件についての売買契約成立の翌日である昭和四五年一月一四日から完済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容すべきであるが、その余は失当として棄却を免れない。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 魚住庸夫)

<以下省略>

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